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大津地方裁判所 昭和52年(ワ)48号 判決 1980年8月06日

原告 安岐亨 外二名

被告 滋賀県

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告ら

1  被告は、原告安岐亨に対し、金九五八〇万円、原告安岐秀夫、同安岐桂子に対し、各金二一〇万円及び右各金員に対する昭和五一年七月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

主文同旨の判決並びに請求認容の場合は担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二請求原因

一  本件事故の発生

原告亨は、昭和五一年七月一七日午後三時頃、大津市真野町字東浦一四五八地先の琵琶湖内にある真野浜水泳場において、沖合約六六メートル、水深一・一三メートルの地点に設置されていた水上ステージから飛込んだ際、頭部が水底に激突して、第五頸椎骨折、第六頸椎脱臼骨折、頸髄損傷(全麻痺)等の傷害を蒙つた。

二  被告の責任

1  国家賠償法二条の責任

琵琶湖は河川法にいう一級河川であり、真野浜水泳場の位置するところは同法九条二項の指定区間として滋賀県知事の管理するところである。そして、真野浜水泳場は公衆の水泳の用に供するために浜辺を人工的に整備した施設であつて、公の営造物に属するものであり、本件水上ステージは、高さ一・八五メートル、縦二・九五メートル、横一・八五メートルの直方体の鉄製の構造物であり、上部に板が乗せられ、水泳している者が梯子をつたつてそこにあがり、背中を干したり飛込んだりするための施設で、水泳場を構成する設備の一つである。

しかるに、本件水上ステージは浜辺から六六メートル沖合にあるとはいえ、水深わずか一・一三メートルという浅部にあり水面上約七〇センチメートルのところに板を敷いて飛込に利用されていたものであるが、プールならまだしも、水泳場においては、水の濁り、波の状態等によつて、水底が見えず、深い浅いの判別が容易につきがたい状態のもとで、沖合にあるから大丈夫だろうと判断して飛込む者のあることは通常予測されるところであるから、飛込んだ者が水底に激突して大事故を生ずる可能性はきわめて大きい。

したがつて、そもそもこのような浅部に水上ステージを設置すること自体が設置に瑕疵ある状態であるというべきであり、仮に設置するとしても飛込禁止の標識をつける等して飛込による危険を防止する措置をとるべきであるところ、それらの措置をとらなかつた点において管理に瑕疵があつたというべきである。これは国家賠償法二条にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたもので、その管理の費用の負担者である被告滋賀県はその賠償責任がある。

2  国家賠償法一条の責任

(一) 滋賀県知事は前記のとおり河川管理者であるが、河川(湖沼)の一部が水泳場として公衆の利用に供されているときは、あたかも公園における遊具の完全性の保持と同様に水泳場を構成する物的施設が遊泳客の安全を保持しているか否かについて日常普段の監視をし、浅部に飛込台が設置されているときはそれを事前に察知して深部に移動させるとか、飛込禁止の標識を明示するとかして事故を未然に防止すべき注意義務がある。

ところで、真野浜水泳場で営業している業者や大字今堅田の代表者等によつて構成された訴外真野浜水泳協会は、昭和四九年七月八日、河川法二四条及び二六条の規定により河川区域の土地の使用及び工作物の設置について知事の許可を得て同年七月一日から同年八月三一日まで飛込台(本件水上ステージとは異る)、桟橋等を設置していた。ところが、昭和五〇年には、飛込台の場所の移動に経費と労力を必要とするという理由から飛込台をやめて水上ステージ三基を設置したが、その際、水上ステージを含め、湖中に設置される水泳場付属設備の全体について河川法上の占用許可を得ていなかつたのである。河川法七五条は、河川管理者の工作物により生ずべき損害の除去もしくは予防のために必要な措置をとる権限を定め、同法七八条は工作物の検査等の権限を定めているが、これは、河川のもつ公共性と一般の公衆利用の安全性に着目して、河川管理者に対し強大な権限を付与したものであり、同時に河川管理者の管理行為の具体的内容をなす作為義務を定めたものである。また、昭和三六年四月一日条例第一九号滋賀県琵琶湖等事故防止条例二条によれば水泳のための施設の設置につき届出を要求し、第四条では事故防止措置をとるべきことを定め、第五条では是正措置をとるべき権限を定めている。これは水難事故防止のために県が一定の作為義務を負担することを河川法と併せて法規上根拠づけるものである。しかるに、本件水上ステージは、昭和五〇、五一年の二年間、無許可占用がなされていたのであるから、管理者である滋賀県知事はこのような違法状態を是正するため、無許可工作物の除去等を行つて公衆の安全をはかる義務があるのに、これを怠り、本件事故を発生せしめたものであり、被告滋賀県は右管理の費用を負担しているものであるから、被告は国家賠償法一条、三条による損害賠償責任がある。

(二) 前記条例第四条(3) 項は、水泳場開設者において「飛込台に水深を明りように表示すること」を義務づけているのに、本件事故当時それは存在しなかつた。したがつて、同条例五条によりこれを付設するよう指示する義務が公安委員会にあるのにこれを怠つた過失がある。また本件水泳場の見張り監視所には監視人はおらず、警察詰所には警察官がいなかつた。このように事故防止のための監視体制も欠落しており危険防止のための安全性が欠ける状態にあつた。そして、公安委員会は、都道府県警察を管理せしめるため、都道府県知事の所轄の下に都道府県におかれたもので、委員は知事が議会の同意を得て任命し、警察の経費は原則として都道府県が負担するものであるから、都道府県知事は、公安委員会との関係では、国家賠償法三条にいう選任者でもあり、費用負担者でもあるので、公安委員会が当事者となつて行つた不法行為については都道府県が損害賠償義務を負担する。

三  損害

1  原告亨

同原告は、本件事故後直ちに堅田病院に収容されたが、頸椎骨折、頸髄完全損傷による神経の切断により胸から下の部分が全く麻痺し、両手は鷲型に曲つたまま動かず、歩行、食事、衣服の着脱、排尿、排便等は独力でできず、日常の動作としては寝たままテレビを見ることしかできず、しばしば、けいれんに襲われ、安眠もできず、身体障害福祉法等級別表一級という重症である。将来ともに回復の見込はなく日に日にやせほそりつつある。

(一) 治療費 二七六万三八〇一円

昭和五一年七月一八日から八月三日まで 一〇万八一一一円

同年八月三日から同年一二月未まで 八三万五五〇〇円

小計 九四万三六一一円

昭和五二年一月分 一三万三二〇〇円

同年二月分 一三万二六六〇円

同年三月分 一三万三八〇〇円

同年四月分 二一万六六八〇円

同年五月分 一三万六一八〇円

同年六月分 九万八一七〇円

同年七月分 九万四二六〇円

同年八月分 七万五六四〇円

同年九月分 六万二〇〇〇円

同年一〇月分 六万四四〇〇円

同年一一月分 六万八一五〇円

同年一二月分 七万一三二〇円

小計 一二八万六四六〇円

昭和五三年一月分 七万一七二〇円

同年二月分 六万七六〇〇円

同年三月分 六万四〇〇〇円

同年四月分 六万二〇〇〇円

同年五月分 六万三七九〇円

同年六月分 六万三五六〇円

同年七月分 六万三六二〇円

同年八月分 六万四六二〇円

同年九月一日から同月六日まで 一万二八二〇円

小計 五三万三七三〇円

以上入院期間分計 二七六万三八〇一円

(二) 付添看護費 七六万八〇〇〇円

入院以来昭和五二年三月末日まで、原告秀夫、同桂子のほかにすくなくとも一人の付添看護を要した。

一人一日三〇〇〇円として二五六日

(三) 入院雑費 二五万六〇〇〇円

一日一〇〇〇円として昭和五二年三月末日まで

(四) 逸失利益 一億二七五五万二七四〇円

原告亨は、昭和三〇年八月四日生れで、本件事故当時、二〇歳一一か月の身心ともに健全な男子で草津高校を一年で中退後建築業を営んでいる父原告秀夫に雇用され大工として働き、毎月約一五万円の給与を得ていた。滋賀県建築組合の大工の協定賃金が昭和五一年当時一日九五〇〇円であり、一か月二五日として二三万七五〇〇円になること、また賃金センサス昭和五〇年度によれば、企業規模計、学歴計の男子労働者(二〇歳~二四歳)で月間きまつて支給される現金給与額一〇万二四〇〇円、年間賞与等三〇万七五〇〇円であり、これを一か月平均にすると一二万八〇二五円となることからも、原告亨において一か月一五万円の収入を得ていたことは相当額である。そして、過去及び将来の情況からみて、右収入は年率五パーセントの割合で上昇するものとみるのが相当である。そして六七歳まで稼働できるものとして稼働年数は四七年間となるので、ホフマン方式による中間利息を控除してその逸失利益を算定すると別表のとおり一億二七五五万二七四〇円となる。

(五) 慰籍料 二〇〇〇万円

原告亨は前記の傷害を蒙り、春秋にとむ身を病床に臥し、将来結婚して子孫を得、楽しい家庭を営む可能性もうばわれ、著しい肉体的、精神的苦痛を蒙つた。

2  原告秀夫、同桂子の損害 各二〇〇万円

右原告両名は、原告亨の両親であるが、本件事件後、同人の看護につとめ、次男であり、優しい性格の持主である亨が全身不髄の身をベツドに横たえている姿を見ることは、親としてまさに死にまさる苦しみである。原告らは治療費を捻出するため、小豆島の土地家屋を売払つた。その慰藉料は各二〇〇万円を下らない。

3  弁護士費用

原告らは、原告ら代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、着手金として五万円を支払い、勝訴判決のあつた場合、認容額の二割以内において報酬を支払うことを約した。右のうち、原告亨につき一三〇万円、同秀夫、同桂子につき各一〇万円、計一五〇万円は本件事故と相当因果関係を有する損害として被告が負担すべきである。

四  むすび

よつて、被告に対し、原告亨は右損害金一億五二六四万五四一円のうち九五八〇万円、原告秀夫、同桂子につき各損害金二一〇万円及び右各金員に対する本件事故発生の翌日である昭和五一年七月一八日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する答弁及び主張

一  請求原因一項(本件事故の発生)の事実のうち、頭部が水底に激突したとの点は不知であるが、その余の事実は認める。

二  同二項1(国家賠償法二条の責任)の事実のうち、琵琶湖が河川法にいう一級河川であり、真野浜水泳場の位置するところは同法九条二項の指定区間として滋賀県知事の管理するところであること、本件水上ステージが沖合六六メートル、水深一・一三メートルのところに設置されており、水面上約七〇センチメートルのところに板が敷いてあることは認めるが真野浜水泳場が公の営造物であることは否認する。もともと真野浜水泳場といわれるものは、被告によつて開設され、管理、運営されているものではなく、そこが水泳に適した湖岸であつたために、古くから公衆が水泳の用に供してきたものであつて、自然発生的に出現した「水泳に適した場所」の一つにすぎないものである。

原告らは、右水泳場が、河川法の適用を受ける琵琶湖内に存在することをもつて直ちに公の営造物であると主張されるかのようであるが、河川法の適用を受ける区域内に存するものすべてが公の営造物であるとするのは誤りである。

また、本件水上ステージという工作物の設置瑕疵を問題にするとしても右工作物は訴外真野浜水泳協会が設置したもので、同協会が所有し、占有管理しているものであつて、被告において設置し管理しているものではない。さらにいうならば、本件水上ステージはまさしく通常有すべき安全性を具備していたものであり、原告亨がおよそ飛込をする者が通常払うべき飛込み場所に対する注意を払うか、あるいは通常の飛込み方をすれば発生しなかつたものである。本件事故は専ら原告亨の過失によつて発生したものである。

三  同二項2(国家賠償法一条の責任)の事実のうち、滋賀県知事が法令による河川管理者であること、訴外真野浜水泳協会が、昭和四九年七月一日から同年八月三一日までの間、河川法二四条、二六条に基づき知事の許可を得て飛込台(本件水上ステージとは異なる)、桟橋を設置し、河川区域内の土地を占用していたが、昭和五〇、五一年については工作物の設置等につき許可がなされていないことは認めるが、本件水上ステージに水深計の設置がなかつたこと及び滋賀県知事に原告ら主張の管理義務があることは否認する。

公務員の不作為が違法とされるためには、当該公務員に法律上の作為義務が認められなければならないところ、河川管理者が負う河川の災害から国民を保護すべき責務(河川法一条)は、通常は国民全体に対する政治的責務であつて、個々の国民に対する法律上の義務ではない。まして、河川を国民が遊泳等に自由使用する際に、当該個々の国民に対し遊泳にとつて安全であるように河川を管理すべき法的義務を負うものではない。原告らの主張する河川法七五条、七八条についても、同法条は、河川管理者が河川について洪水、高潮等による災害発生の防止、河川の適正利用の維持及び流水の正常な機能を維持すべく監督行為を行うための権限を定めたものであつて、原告のような特定個人に対する法的義務を定めたものではないし、また当該監督処分ないしは立入検査を行うか否かは個々具体的な事例についてその違法性の程度、治水、利水面に及ぼす影響等を考慮したうえでの河川管理者の合理的判断に基づく自由裁量に委ねられているものである。

ところで、裁量権の幅が零収縮する場合の要件として一般に次の三つが掲げられる。

イ  生命、身体に対する高度の危険が切迫していること(あるいは、権限の行使によつて保護されうる法益に重大な障害の発生が明白に予想されること。)。

ロ  結果発生の阻止が権限の行使により容易に達成できること。

ハ  防止には権限の行使以外に有効な手段がないこと(あるいは、権限の不行使が著しく不合理であることが通常人の目から見て明白であること。)。

これを本件についてみれば、まず、本件水上ステージが設置されていた状況から、直ちに、高度の危険が切迫していたとか、重大な障害の発生が明白に予想されたとは到底認められず、イの要件は満たされない。次に知事が本件水上ステージを除去しておれば、本件事故は未然に防止できたと認められるが、琵琶湖内のすべての危険物を除去することは容易ではなく、水深計が設置されていなかつたとして、公安委員会がその設置を指示しても、ステージ管理者がこれに応ずるか否かは不明であり、たとえ水深計が設置されたとしても、本件事故が発生しなかつたとは断言できないから、ロの要件も満たされない。そして、本件事故については、諸権限の行使がなくとも、水泳客においてわずかな注意を払うことによつて完全に防止でき、権限の行使が著しく不合理であるとも解されないから、ハの要件にも該当しない。

よつて国家賠償法一条を根拠とする請求も理由がない。

四  同三項(損害)の事実は否認する。

第四証拠<省略>

理由

一  まず原告ら主張の被告に国家賠償法二条の責任があるとの点について判断する。

琵琶湖が河川法にいう一級河川であり、本件水上ステージの設置されていた大津市真野町字東浦一四五八地先の琵琶湖内にある真野浜水泳場の位置するところが、同法九条二項の指定区間として滋賀県知事の管理するところであつたことは当事者間に争いがない。原告らは、真野浜水泳場は公衆の水泳の用に供するために浜辺を人工的に整備した施設であつて、公の営造物に属するものであると主張するので検討するに、成立に争いのない甲第六号証の一ないし三、同乙第一、第二号証及び証人木村隼治の証言によると、真野浜水泳場は、昭和の初期に、江若鉄道株式会社及び太湖汽船が琵琶湖畔を整備し、併せて遊具施設をも設置して、これを水泳場として開設したものであるが、昭和三二年頃からは、場内で営業を行なつている業者及び地域の代表として周辺の部落の役員が参加して真野浜水泳協会を結成し、同協会が水泳場内の施設を整備、拡充してきたもので、ボート、桟橋、水上ステージ(本件ステージもこれにあたる)、シーソゲーム、鉄棒等の遊具施設の設置、水泳場の清掃、あるいは水泳客の誘致をも行ない、これを一般市民に水泳場として提供してきたものであることを認めることができる。ところで、国家賠償法二条にいう公の営造物とは、行政主体により特定の目的に供用される建設物又は物的設備をいうものと解されているところ、右認定事実によれば、国としては、琵琶湖の真野浜水泳場といわれる付近一帯をそれが自然に存在するままの状態で一般公衆の自由な使用に供してきたものにすぎず、現在まで同所に何らの建設物も物的設備も設置、管理してきたことはないのであるから、真野浜水泳場は国家賠償法二条にいうところの公の営造物ではないといわなければならない。したがつて、右水泳場が公の営造物であることを前提にして被告の責任を問う原告らの主張は、その前提が認められないから、その余の点の判断に進むまでもなく理由がない。また、本件水上ステージ自体が被告の設置、管理しているものではないことは、前認定のとおりであるから、これに瑕疵があるとする原告らの主張もその前提を欠き採用できない。

二  次に原告ら主張の被告に国家賠償法一条の責任があるとの点について判断する。

滋賀県知事が真野浜水泳場付近一帯の法令による河川管理者であることは前記のとおりである。

原告らは、本件水上ステージが浅部に設置されているときは、管理者である滋賀県知事において、それを事前に察知して深部に移動させるとか飛込禁止の標識を明示させる義務がある旨主張するが、滋賀県知事は、前記一で説示したとおり、本件水上ステージの設置者でも管理者でもないのであるから、同知事にこのような義務があるとするのは相当でないので、右主張は採用できない。

また、原告らは、本件水上ステージは河川法二四条の占用の許可、同法二六条の工作物の新築の許可を受けていない工作物であつたから、滋賀県知事は公衆の安全をはかるためこれを除却すべき義務があつた旨主張する。

思うに、河川法九条二項により国から機関委任事務を受けて一級河川を管理する都道府県知事は、同法二四条、二六条の許可を受けないで設置された工作物に対し、必ずしもすべてのものを除却しなければならない義務を負うものではなく、当該工作物が、その設置されている周囲の状況から判断して治水、利水、流水の正常な機能を阻害し、災害発生のおそれがあるとか、あるいは、それが、通行、航行の障害となつて衝突事故が発生したり、倒壊のおそれ等があつて、無許可工作物の存在が国民の生命、身体、財産の安全に直接差迫つた危険が及ぶ場合(河川法一条、二条一項参照)であれば格別、右事情が存在しない場合であれば、無許可工作物を除却しなかつたとしても都道府県知事が管理責任を問われることはないと解すべきである。なお、河川管理者が権利として無許可工作物をすべて除却することができることはいうまでもない(河川法七五条)。そして、この理は、滋賀県琵琶湖等事故防止条例が、水難事故防止のため、水泳施設の設置者に各種届出を公安委員会に対し要求し、公安委員会のこれに対する是正措置を規定していたとしても変ることはないものである。

これを本件についてみるに、前掲甲第六号証の一ないし三、乙第一、第二号証及び木村証言によれば、本件水上ステージは、本件事故のあつた昭和五一年には、河川法二四条、二六条の占用、新築許可申請がなされず、無許可で同種のものが三基真野浜水泳場に設置されていたが、それ以前の昭和三六年から昭和四九年までは木製の飛込台(本件水上ステージとは異種のもの)、桟橋及び監視台等について右許可申請がなされ、そのまま許可されていたこと、本件事故後の昭和五二年には本件水上ステージと同種、同様の構造のものが右許可を受けて六基設置されていたこと、また、本件水上ステージの構造は、縦約一・八〇メートル、横約二・九九メートル、高さ約一・八三メートルのほぼ直方体の鉄製の工作物でステージ台横に水深計が表示され、上部に板を乗せて遊泳客の休憩の用に供されていたもので、本件事故当時沖合約六六メートル、水深約一・一三メートルの地点に設置(当事者間に争いがない)されていたことを認めることができる。右認定事実によれば、本件水上ステージは、スポーツ遊具施設であるところ、スポーツ遊具施設は本来内在的に生命、身体に対する危険を有しているものであるが、その危険は利用者自らが防除すべきものであつて、これが琵琶湖内の前記地点に設置されていたとしても、周囲の状況に照らし、さしあたり、治水、利水、流水にさしたる影響もなく、また、右スポーツ遊具施設の有する内在的危険以外には、国民の生命、身体の安全に直接差迫つた危険が及ぶものであるとは通常予見出来ない状態の工作物であつたから、滋賀県知事がこれを除却しなかつたからといつて、その管理責任を問うことはできないものである。

したがつて、この点に関する原告らの主張も採用できない。

さらにまた、原告らは、本件水上ステージに水深計の表示がなかつたことや、見張人、監視人が置かれていなかつたことの責任を滋賀県公安委員会に対し追及するが、本件水上ステージに水深計の表示があつたことは、前認定のとおりであり、また、たとい見張人、監視人が置かれていたとしても本件事故が防げたかどうか疑問であるから、右主張も採用することができない。

三  以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、その余の点の判断に至るまでもなく、失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大津卓也)

別表<省略>

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